
中山 友里恵さん
宮代町商工会 青年部 / Remore nailroom
ふわりと舞い上がる、200基のランタン。それぞれの願いを灯した光が、夜空をやさしく照らしました。“やってみたい”という小さな想いが、町に希望を浮かべる大きな光に。2024年10月、『スカイランタンⓇ』が開催されました。
静かな想いが 動き出す
商工会の青年部※に入ったばかりの頃、右も左も分からない状態で、先輩に「何かやってみたいことある?」と聞かれました。予算のことも、どのくらいのことができるのかも全然わからない“真っさら”な状態で。
(※宮代町商工会青年部…宮代町で事業を行っている45歳以下の青年事業経営者及び後継者から構成される)
そこで、まずは町のためというより、自分がやってみたいことから考えました。どんなイベントだったら自分がワクワクするかなと考えたときに、映画『塔の上のラプンツェル』のランタンフェスティバルのシーンが頭に浮かんできて。あの景色を、自分も体験してみたいと思いました。
このランタンというのも、自分の夢や願いごとを込めて空に飛ばしたり、ご先祖様に自分の状況を報告したりする意味があるものだと聞いていたので、それをこの町で、イベントとして形にできたら素敵だなと。
正直、青年部でそんなロマンチックな企画が通るのか不安もありました。でも、「いいじゃん!」「空にランタンが浮かぶ景色が目に浮かぶよ」と、思いのほかポジティブな反応をもらえて。「まずやってみよう」という雰囲気になれたのが、すごく嬉しかったです。
未来を照らす リハーサル
とはいえ、いきなり本番というわけにはいかなくて。まずは、このイベントがどういうものなのか共通認識を持とうと、青年部内の交流イベントの一環として、実際にランタンを飛ばすことになりました。ランタンを協会から取り寄せて組み立て、部員のご家族も呼んで、みんなで打ち上げたんです。
ただ、その日は風が強かったこともあり、残念ながら綺麗にランタンが打ち上がる景色は見られませんでした。でも私にとっては、会場の手配から町や協力先との調整など、多くのことを学べた機会でもありました。おそらく先輩たちも、そういう経験を含めて「まずやってみよう」と言ってくれたのだと思います。
その後も、実際にランタンの打ち上げをやっている他の町に視察に行ったりして、少しずつイメージを具体的にしていきました。私自身、イベントの経験もなかったですし、最初はどう進めたら理想に近づけるのかも分かりませんでした。それでも「こんなふうにできたら素敵だな」というイメージを、まず周りに伝えることから始めました。
夢や希望は、誰しも少なからず持っていると思います。私も、結局のところ「家族が幸せでいてほしい」という気持ちが、すべての原動力になっていて。まずは身近な人たちが幸せになることが、やがて地域、日本全体の幸せにも繋がっていくと思っています。
そんな想いを、子どもたちを中心に、みんなで共有できるイベントにしたかった。
願いごとは人それぞれでも、ランタンを空に飛ばすことで「未来が良くなってほしい」という気持ちは一緒にできる。少しでも前向きな気持ちになって、「明日からまた頑張ろう」と思えるような、そんな場になったら嬉しいなと。そして、子どもたちが楽しそうにしている姿を見て、親御さんも思わず笑顔になるような、そんな光景を思い描きながら、このイベントを作ってきました。
200の願いが 灯る夜
イベント当日、ランタンは170基すべて完売。お礼として町長や出演者の方にお渡しした分を含めると、全部で200基を打ち上げました。はらっパークで一斉に打ち上がったその光景は、本当に感動的でした。
ランタンを手にした人たちを見て、周りからも「私もやりたいです」「どこで買えるんですか?」とたくさん声をかけてもらいました。でも完売したことを伝えると、みんな本当に残念そうで。逆に、それだけ多くの想いが届いたのかなとも感じました。
光景そのものも本当に綺麗で、「この町でこんな景色が見られるなんて」と思うと、ただただ感動でした。そして何より、ランタンを飛ばしていた一人ひとりが、それぞれの願いを書いて空に放っていたこと。みんなで未来に希望を持った瞬間が、あの空間には確かにあって。すごくポジティブなエネルギーが集まっていたのだと思います。
後から聞いた話なのですが、ある来場者の方が、会場で隣にいた人とたまたま話したら、その人は川崎から来ていたそうで。「最近ずっと気持ちが沈んでいて、何日も外に出ていなかった。でも、たまたまSNSでこのイベントを知って、来てみたんです」と。
他にも、イベント前にはメールで「娘がもうすぐ手術を控えているので、その成功を願って、ランタンを上げに行きます」というメッセージが届きました。
ランタンはあくまで“きっかけ”で、本当に大事だったのは、そこに集まった人たちが、それぞれの想いを込めて未来を見つめられる瞬間や場を作りあげること。だから私は「これでよかったんだな」と、心から思えました。
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また、ランタンを打ち上げるだけではなく、イベントとして人に来てもらいたいという想いがありました。そこで、地域の飲食店に出店してもらったり、町内の学校にも協力してもらって、部活動の発表の場にしたり。せっかくやるなら、今までみんなが頑張ってきたことを発揮できる場、そして未来に繋がる場所にしたかったんです。
飲食ブースも大盛況で、イベント終了前にほとんどの店舗が完売していました。お礼を伝えに回ったときも、「全部なくなっちゃった!」「正直、ナメてたわ(笑)」と、嬉しい悲鳴を上げてくれたのが印象的でした。
ステージに出てくれた学校の先生方にも、事前にイベントの趣旨や想いをしっかり伝えていたので、終わった後に「生徒たちにとっても、貴重な経験になりました」と言ってもらえて。本当にやってよかったなと思いました。
仲間と描いた景色
あの景色や空気感をつくれたのは、私たち運営側だけじゃなくて、参加してくれた皆さんがいたからこそだと思います。どちらか一方が欠けていたら、あの光景にはならなかった。だから、関わってくれたスタッフや出店者、出演者、そして来場者の皆さん、すべての人に心から感謝しています。
このイベントを通して、「こういう場を実現できる力が宮代にはある」と実感できましたし、それを求めてくれる人たちも、ちゃんといるのだとわかりました。結局、商売と同じで、“届ける側”と“受け取る側”がいて、そこがうまく噛み合ったときに、初めて価値が生まれる。今回はそれが形になった気がしています。
私が青年部にいるのは、そういう“仲間と学び合える場”だから。申請であったり、出店者や出演者とのやり取りなど、すべてが実践の中で学べる経験でした。トラブルもほとんどなく終えられたのは、ひとつひとつの準備や連携を丁寧に積み重ねた結果だと思います。
イベントをつくる上では、何にどれくらいお金がかかるか、人手が足りないときにどう巻き込むかなど、現実的なことも考えないといけない。でも、そういう課題を一緒に乗り越えてくれる仲間がいるから、前に進めるのだと思います。
今回もたくさんの方が協力してくれました。特に青年部のOBの皆さんが「現役の頃を思い出すね」と言いながら積極的に動いてくださったのは、本当に心強かったです。
新たな夢のはじまり
私は、子どもが3人いることもあって、「子どもたちが明るい未来を思い描けること」が大事だと思っています。子どもたちが前向きでいられたら、それを見た大人も「未来って希望に満ちているな」と感じられると思うし、そういう空気が町全体の明るさにも繋がる。これからの時代を担っていく子どもたちや若い世代が対象になるようなことをしていきたいです。
周りから「夢ばっかり見ていても実現しないよ」と言われることもありますが、私は夢がなければ、そもそもそこにどう近づいていくかも考えられないと思っていて。
もちろん、夢を実現していくには自分一人の力では限界があります。だからこそ、いろいろな人と関わりながら、学んで、動いて、少しずつでも前に進んでいける環境があるのは、とてもありがたいです。
イベントをやること自体が目的じゃなくて、その準備や運営を通して得た学びや経験を、自分自身の成長に繋げていきたい。そして最終的には、地域や子どもたちの未来のためになることができたら、それが私にとっての成功なのかなと。さらにそれが、きっと未来に繋がっていくのかなと思います。
写真提供:中山 友里恵さん
イベント協力:日本スカイランタン協会Ⓡ
【編集後記】 夢を見ているだけで終わらせず、ひとつずつ行動に移し、周りの仲間の力を借りながら実現へと近づけていく。その姿が、また次の夢を生み出していくのだと思います。幻想的なランタンを見上げながら、それぞれが自分の未来に思いを馳せる、かけがえのない時間が生まれていたことが何より素敵だなと感じました。 取材日 令和7年2月14日 |
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