
菊地 純平さん・菊地 沙耶さん・小椋 圭人さん
進修館劇場 実行委員
ちょっと特別な雨の降る夜、進修館は“映画館”になった。一夜限りじゃ終わらない、町に根づく楽しみを育てたい。2024年11月、『進修館劇場』の幕が上がりました。
「劇場」に込めた想い
菊地さん:やっぱり進修館は、宮代町のシンボルですよね。僕がこの町に引っ越してきたのも、この建物の存在が大きな理由です。建築としての魅力だけでなく、「ここで何かをやってみたい」という思いがずっとあって。進修館には、人が自然と集まってくるような、そんな場所であってほしいと感じていました。
僕も妻も建築を学んできたので、進修館や笠原小学校を設計した象設計集団のことも以前から知っていました。あるとき雑誌で、かつて進修館で映画が上映されたことがあると知り、強い衝撃を受けたんです。
Photo by jumpei kikuchi
菊地さん:“すり鉢状”の芝生広場、中央が段々になっていて、2階へとつながっていく構成。あの空間がまるで劇場のように思えて、そこからイベント名を『進修館劇場』と名付けました。
雑誌で見た「芝生広場の中心にスクリーンを設置して、すり鉢のところが客席になり、人がわーっと集まってくる」、そんな風景こそが、進修館が最も輝く瞬間なんじゃないかと思ったんです。引っ越してきたばかりの頃に、町民まつりでキッズダンスを見たときも、たくさんの人が自然に集まっている様子がすごく素敵で、強く印象に残っています。
このイベントを始めるきっかけになったのは、圭人君が隣町で「まちなか てづくり映画館 トゥナイト」という野外映画会をやっていたことです。僕よりもずっと若い彼が、まちの中でそういう場を作っている。その姿に刺激を受け、「一緒にやろうよ」と声をかけました。
Photo by jumpei kikuchi
小椋さん:僕自身、宮代町で生まれ育ったので、進修館はずっと身近な存在でした。大学生になり、改めて「進修館って面白い建物だな」と気づかされて。だからこそ、「いつかここで何かやってみたい」という気持ちは、漠然とありました。
以前、東京・隅田公園で開催されている「すみだパークシネマフェスティバル」という野外映画祭に関わる機会があって。これは地域の有志によって運営されているのですが、一緒に企画するのも楽しかったし、当日に見られた景色も素晴らしかったんです。
「こういうことを地元でもできたらいいな」と、そのときに思いました。町にある公共空間を、みんなで使って楽しめる場所にしたくて。それで2024年8月に、隣町で映画会を開催しました。
やりたい!をカタチに
菊地さん:実際に企画し始めると、憧れの場所で何かができるという、ワクワクする気持ちが大きくなっていきました。
周りに相談してみると、「いいじゃん!」と前向きに乗ってくれたり、手伝ってくれたり。気づいたらイベント当日の予定を空けてくれていたり、フードやドリンクの出店者を探しているときには「声かけてみるよ!」と言ってくれる人もいました。ほかにも竹灯籠を作ってくれたり、当日は雨で出せませんでしたが、スクリーンのフレームになる足場材を貸してくれたり…
宮代にいると、何かやろうという人たちを後押ししてくれる、やりたいと思ったときに実行できてしまう、その気にさせてくれる感じがあるんです。皆さんが背中を押してくれるおかげで、準備段階からすごく楽しかったです。
映画は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を上映しました。この作品が公開された1985年は、進修館ができた時期(※1980年に開館)とすごく近いんですよ。それもあって、「当時の映画を観ながら、進修館ができた頃の風景に思いを馳せるっていいよね」という想いで、この映画を選びました。
Photo by meguru yokokawa
菊地さん:子どもたちに地元の印象的な風景を残してあげたい、という想いも強かったので、子どもの入場料は無料にしたいと考えていました。
今回は高校生以下の入場料を無料にしたのですが、映画上映には版権や会場費などの費用がかかります。今後この取り組みをどうやったら持続できるかを考え、「こどもみらいチケット」というものをつくりました。
大人に子どもたちのチケットを先払いしてもらい、次回の映画上映で子どもたちが無料で観られるようにする仕組みです。これも企画の相談をしていく中で、町の方からいただいたアイデアです。ありがたいことに、当日入場券の枚数を上回るチケットのご購入がありました。
宮代町には、映画館がありません。だからこそ、みんなで一緒に映画を観るという体験に共感してもらえたのかなと感じています。
雨の中の上映会
菊地さん:雨だったんですよね、当日は。すごいやきもきしながら、「あ〜、やっぱりダメだったか…」という気持ちもあって。それでも皆さん「雨でも楽しめればいいよね!」と言ってくれました。
小椋さん:前日には、晴れますようにと気象神社にお参りにも行きましたが、やっぱり野外でやるとなると、天気は読めない部分があるので…
Photo by meguru yokokawa
菊地さん:会場を芝生広場から大ホールに変更しての開催となりましたが、それはそれで空間の良さが活きていて、この建物が持つ魅力を改めて感じました。
思った以上にたくさんの人が来てくれて、正直ホッとしました。知っている人たちが来てくれたのもすごく励みになったし、2時間って結構長いのに、じっと見てくれて、一緒に楽しんでくれていたのが伝わってきて。
小椋さん:実は自分の親が、しれっと見に来ていました(笑)。やることは伝えていたのですが、知り合いのママ友を連れて来ていて。見に来てくれたことが意外で驚きましたが、でも嬉しかったですね。
菊地さん:大ホールの階段に座って見てくれたり、子どもたちは走り回ったりしていて。映画館とは違う風景を作りたいと思っていたので、そういう意味では、ひとつ「こういうのもアリだよね」っていう姿を見せられたのかなと。
「芝生広場でやりたい!」という思いは、さらに強くなりました。次こそリベンジしたいです。
小さな一歩が 未来をひらく
小椋さん:地元でこういうイベントをやれたことが、すごく嬉しかったです。これまで周りには、同年代の友達しかいませんでしたが、この活動を通じていろいろな世代の人たちとつながることができました。
最近は、町内会とか地域のつながりも薄くなってきていますよね。正直なところ、町にはご年配の方が多く住んでいる印象がありました。だから今回、地元でアクションを起こしている大人たちと知り合えたことは、すごく意味があったと思っています。
Photo by meguru yokokawa
菊地さん:このイベントも、圭人くんが野外映画会をやっていたことをきっかけに、声をかけたっていう経緯があります。だから、今度はこの『進修館劇場』を見て、「自分もやってみたい!」という人が出てくる番だと思うんです。
この町には、応援してくれる人がたくさんいます。それも、いろいろなジャンルで、それぞれ得意なことを持っている人がいる。ちょっと相談してみると、最初は「難しいかな?」と思っていたことでも、意外と簡単にできてしまうこともあるはずです。
そういう風に、町の人たちの“リソース”に甘えながら動けるのが、この町の良さだなと思うんです。とりあえず、まずは言ってみる。そうすると、みんなイベント慣れしているから、何かしら助けてくれる。だから、“頼る”ってことが大事なのかなと思います。
この特別を ふつうに
菊地さん:開催後のアンケートで印象的だったのは、「子どもたちが走り回っているのが良かった」という意見です。映画と子どもの賑やかさって、普通だと相性が悪いイメージがあると思うのですが、それを逆に“良かった”と言ってもらえた。
『進修館劇場』でやりたかったのは、みんなでワイワイしながら、笑うところはゲラゲラ笑って、悲しいところは泣きながら観る、そういう空間だったんです。なので、そう言ってくれる人がいたのは、本当に嬉しかったです。
Photo by jumpei kikuchi
菊地さん:このイベントを知ってもらいたいのは、まずは地元の人たち。進修館の魅力をもっと知ってもらいたいし、日常の延長としてそういう風景を残していきたい気持ちがあります。
将来的には、町外から来た人が昼間は町内を巡り、いろいろなお店を楽しんで、夜には進修館で、映画を観て帰る。そんな風に、外から人が訪れるきっかけにもなったらいいなと。そういう“入口”になるようなことを、これからもしていきたいです。
写真提供:進修館劇場
【編集後記】 時代が移ろっても変わらず、町のシンボルであり続ける進修館。過去の記憶を受け継ぎながら、新たな世代の熱意が『進修館劇場』として重なりました。このイベントが人びとが集まるあたたかな場所となり、町の風景にしっかりと根付いていくことを願っています。 取材日 令和7年2月18日 |
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移住者インタビュー Vol.12「ちょうどいい距離感で暮らせる町」
宮代町の魅力を毎回さまざま視点から取り上げ、ご紹介しています。
リーフレットは、宮代町役場や無印良品東武動物公園駅前などで配布しています。
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