
長谷川 知広さん
ナナメのあそび場 主宰
コロナ禍で薄れていったご近所づきあい。そんな中、『ナナメのあそび場』という小さな取り組みが始まりました。公園で月に1回ほどひらかれるこの“遊び場”は、地域の新しいつながりを生み出しています。
遊びの主導権は 参加者に
『ナナメのあそび場』(以下『あそび場』)という名称で、月1回ほど、公園や集会所を使って大人も子どもも自由に楽しめる場をつくっています。みんなでやりたいことを持ち寄って、公園の広さを利用しながら、元々ある遊具とはまた違う遊び方を広げることを大切にしています。
おもちゃを持ってきたり、巨大オセロをしてみたり、その時々で内容は違いますが、『あそび場』を主催しているメンバーで、それぞれ得意なことを持ち寄っています。段ボールを持っていって工作やお絵描きをする人や、絵本の読み聞かせをする人もいます。
回によっても違いますが、参加者は子どもと大人がだいたい半々くらいの割合です。お子さん連れの大人もいれば、大人だけで参加してモルックを楽しんでいる方もいます。椅子に座ってお茶を飲みながら、雑談を楽しんでいる方も。
子どもは楽しそうに、勝手に遊んでいます(笑)。例えば僕の娘は、普段だと僕に付きっきりなのですが、『あそび場』ではどこにいるのか分からないくらいずっと動き回っていて、いろいろなお子さんと遊んでいます。同じ保育園のお友達もいれば、そうではない小学生のお子さんとも遊んでいて、そこで顔馴染みが増えている感じがあります。
アフターコロナで芽生えた想い
ご近所づきあいがしづらくなったコロナ禍を経て、「地域で子どもを育てたい」と考えたのが始まりです。子育てを家族単位で完結させるのではなく、地域で自然に子どもが育っていく環境が理想でした。そのためには何か“人と人が出会う”ための仕掛けが必要と考え、イベントとして『あそび場』を開くことを思いつきました。
また、公園で遊んでいるときに「子どもは遊び、大人は見守る」という固定された役割に違和感を抱きました。大人も本当は遊びたいだろうし、“○○ちゃんのパパ”といった子どもを通した関係だけでなく、周りと関わりたい気持ちがあるはずだと。
娘が公園で遊ぶ様子を見ている中で、遊び方や関係性がルーチン化して残念に思っていた経験から、“公園”という場をもっと開かれた、自由な交流の場にしたいという想いがありました。
子どもと地域を結ぶ あたらしい関係
最初は『ナナメのあそび場』という名称では実施していませんでした。活動を数回重ねたときに「何かコンセプトがあったほうがいいよね」とメンバーと話して生まれたものです。
子どもにとっての親や先生といった“縦の関係”でも、同じ年齢の子ども同士といった“横の関係”でもない、地域の異年齢の大人や子どもと交わる関係が、子どもにとって人生のヒントになったらいいなという想いを“ナナメの関係性”としました。
気づけば「参加者」から「仲間」に
2024年1月に初めて『あそび場』を開催してから、1年が経ちました。
まず常連さんができたのは大きいです。自分たちで居場所や出番を見つけて、お料理を手伝ってくれたり、工作に使う材料を持ってきてくれたり。自発的に「この遊びを担当してみたい!」と言ってくれる方もいて、いつの間にか主催者と参加者の垣根が無くなってきているのは、本当にすごいなと思って見ています。
また3月にはCCC(Cleanup & Coffee Club)とコラボさせていただき、みんなで公園のゴミを拾ってから遊び場を実施しました。自分たちの地域や暮らしを豊かにするために、楽しく活動できています。
参加者の方にとっては「顔馴染みに会いに来る」、「ここに来れば子どもが自主的に遊んでくれる」という状況を少しは作れているのかなと思います。あとは回数を重ねてくると自然と顔馴染みが増えるので、スーパーや駅で会うことも増えてきて。それは『あそび場』がいろいろな方との繋がりを作るきっかけになっているのだと実感します。
困りごとも分け合える場に
地域に多様な大人がいることで、子どもたちは「いろいろな人がいる」ことを体感できます。例えば僕は病気を経験していますが、今は元気に働いています。でも病気を患っていることを周りに言えず、家族内で抱えてしまう方もいるでしょう。そうやってどんどん視野が狭くなる中で僕と話して、「この人が元気なら、自分も大丈夫かも!」と希望を感じる子がいるかもしれない。やりたいことで繋がるのも良いけれど、同じような困りごとを経験した大人がいることを知って繋がれると、もっと良いなと。
困っているときほど、他人に相談できないと思うんです。前職でホームレス支援に携わっていたときも、制度を使うことに申し訳なさを感じる声をたくさん聞いてきました。だからこそ、遊んでいるときにふと「ちょっと最近こんなことがあってね」と悩みをこぼしてしまうような、何気ない会話の中で自然と本音を出せる関係性こそが、人との繋がりにおいて大事なんじゃないかと。
さまざまな参加者がいることで「○○のことを相談に乗りたいから、××さんお願い!」というのができます。僕は今、障がいのある方の就労支援の仕事をしているのですが、制度の中での対応になってしまう側面があります。でも日常的な繋がりや顔が見える関係があったら、もっと早い段階で予見し、適切な社会資源につなぐことができたかもしれないという気持ちがあって。それで『あそび場』をやっているのかもしれません。
写真提供:ナナメのあそび場
【編集後記】 大人になってくると、いつの間にか関わる人は固定されてきて、新しい関係も生まれにくくなるもの。だからこそ、子どもが多様な背景や価値観を持つ大人と関わる経験は、視野や発想を豊かにしてくれるはずです。『ナナメのあそび場』は、そんな出会いのきっかけ。“地域で子どもを育てる”という、かつて当たり前だった姿に、今こそ立ち返るタイミングなのかもしれません。 取材日 令和7年2月25日 |
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